百万人署名運動ブログより
6月15日(木)、いつもより40分ほど早い9時20分過ぎから10時50分過ぎまで、衆議院憲法審査会が開かれました。今回が実質的な審議が行われた今国会最後の衆院憲法審で、3月2日の第1回から5月4日の休日を除き15週連続の定例日開催が貫徹・強行されたことになります。
この日は、前回の審査会で改憲勢力が要求した緊急事態条項の論点整理がテーマとされ、冒頭に橘幸信衆議院法制局長が各会派の発言を整理したペーパー(下図:注参照)の内容を説明し、その後各会派の代表が10分以内でそれぞれの見解を述べるという形で議事が進められました。
* 注:A3版を横に使って作成された資料でこのブログでは文字が小さく読みにくいと思いますので、興味のある方は衆議院憲法審査会のホームページからご覧ください(
)。まず、今回の報告でもこの日の衆院法制局長の説明と各委員の発言の要旨をまとめた『東京新聞』のウェブサイトに掲載された記事を転載させていただきます。
衆院憲法審査会・発言要旨(2023年6月15日)
『東京新聞TOKYO Web』2023年6月15日
衆院憲法審査会が15日開かれた。衆院法制局が緊急事態条項を巡る各党派の見解をまとめた論点整理を示した後、討議を行った。発言の要旨は次の通り。
◆説明聴取
橘幸信・衆院法制局長
自民、公明、維新、国民、有志の5会派は「参院の緊急集会は憲法の規定内容から一時的・限定的・暫定的制度であることは明白で、二院制国会の例外である緊急集会では、国政選挙が実施困難となるような真の緊急事態は想定されておらず対応できない。緊急事態に二院制国会を機能させるためには議員任期延長が必要」と結論づけている。
自民、公明、維新、国民、有志の5会派は「参院の緊急集会は憲法の規定内容から一時的・限定的・暫定的制度であることは明白で、二院制国会の例外である緊急集会では、国政選挙が実施困難となるような真の緊急事態は想定されておらず対応できない。緊急事態に二院制国会を機能させるためには議員任期延長が必要」と結論づけている。
立憲は「議員任期延長は国会議員を固定化し、内閣の独裁を生む恐れがある。本来、選挙で民意の審判を仰ぐべきであり、任期延長された議員には民主的正統性が欠ける。参院の緊急集会で対応すべき」との意見だった。共産は「議員任期延長は選挙権を停止することで国民主権の侵害につながり、権力の乱用と恣意的延命にもつながる」と強調する。
5会派は、選挙実施困難の要件具体化の例として、広汎性と長期性の2要件による認定基準の具体化を提案している。手続き要件として、内閣の認定と国会の事後承認を要することで一致。議決要件は、出席議員の3分の2以上か、過半数か議論が必要という意見がある。また、裁判所による第三者的なチェックが必要ではないかという論点がある。任期延長の幅は上限を定めるべきこと、選挙が可能になったときは直ちに実施すべきことについては認識が共有されている。
◆各会派代表の意見
新藤義孝氏(自民)
緊急事態に際し、国家の責務と権限を明確にし、国民を守り抜くための最大機能を発揮させるためには、平時モードから有事モードに切り替える概念を憲法に定めておくことは必要不可欠。緊急事態条項は、一定の取りまとめの方向性を議論する時期に来ている。
緊急事態に際し、国家の責務と権限を明確にし、国民を守り抜くための最大機能を発揮させるためには、平時モードから有事モードに切り替える概念を憲法に定めておくことは必要不可欠。緊急事態条項は、一定の取りまとめの方向性を議論する時期に来ている。
階猛氏(立憲民主)
選挙困難事態においても、議員任期の復活や延長は必要なく、参院の緊急集会が暫定的に国会の機能を果たすべきだ。ただし、立憲主義の観点から、時の権力者が恣意的に選挙困難事態を認定し、緊急集会が乱用されないような方策を講じるべきだ。
選挙困難事態においても、議員任期の復活や延長は必要なく、参院の緊急集会が暫定的に国会の機能を果たすべきだ。ただし、立憲主義の観点から、時の権力者が恣意的に選挙困難事態を認定し、緊急集会が乱用されないような方策を講じるべきだ。
三木圭恵氏(維新)
岸田文雄首相の自民党総裁任期の来年9月までに憲法改正しようとすれば、逆算すると、1月には改憲原案の作成に取りかからなければならない。スケジュールに対する自民党の考えは。
岸田文雄首相の自民党総裁任期の来年9月までに憲法改正しようとすれば、逆算すると、1月には改憲原案の作成に取りかからなければならない。スケジュールに対する自民党の考えは。
上川陽子氏(自民)
ここで言う任期は来年9月を想定したものではなく、今後の党運営の中で決まっていく。具体的なスケジュールを念頭に置いて作業を行っている状況ではない。
ここで言う任期は来年9月を想定したものではなく、今後の党運営の中で決まっていく。具体的なスケジュールを念頭に置いて作業を行っている状況ではない。
北側一雄氏(公明)
衆院憲法審査会では昨年20回、今年15回の実質討議を行った。35回のうち(緊急事態条項の討議は)28回。5会派の間では参院の緊急集会の意義と適用範囲、それを踏まえた上での緊急事態における議員任期延長の必要性はおおむね一致している。
衆院憲法審査会では昨年20回、今年15回の実質討議を行った。35回のうち(緊急事態条項の討議は)28回。5会派の間では参院の緊急集会の意義と適用範囲、それを踏まえた上での緊急事態における議員任期延長の必要性はおおむね一致している。
玉木雄一郎氏(国民民主)
遅くとも来年の通常国会で発議できるスケジュールで作業を進めるよう、自民党には作業をリードしてほしい。立民の意見は(議院任期延長ではなく)緊急集会ということだが、議論次第では十分に合意の余地があると期待している。
遅くとも来年の通常国会で発議できるスケジュールで作業を進めるよう、自民党には作業をリードしてほしい。立民の意見は(議院任期延長ではなく)緊急集会ということだが、議論次第では十分に合意の余地があると期待している。
赤嶺政賢氏(共産)
今国会の憲法審査会で議論されたのは、緊急事態条項だけではない。多岐にわたるテーマが議論されたにもかかわらず、多数の会派だけで都合の良い論点を抜き出し、改憲案の擦り合わせにつなげようとすることは断じて認められない。
今国会の憲法審査会で議論されたのは、緊急事態条項だけではない。多岐にわたるテーマが議論されたにもかかわらず、多数の会派だけで都合の良い論点を抜き出し、改憲案の擦り合わせにつなげようとすることは断じて認められない。
北神圭朗氏(有志の会)
議員任期延長は国民の選挙権を制限し、正統性の根拠が乏しくなるとの反対会派の不信感が示されている。われわれの案は(任期延長に)国会の3分の2以上の事前承認が求められ、事後的に司法の関与もある。非常時における民主的正統性は担保される。
議員任期延長は国民の選挙権を制限し、正統性の根拠が乏しくなるとの反対会派の不信感が示されている。われわれの案は(任期延長に)国会の3分の2以上の事前承認が求められ、事後的に司法の関与もある。非常時における民主的正統性は担保される。
* 引用、ここまで。
筆頭幹事不在で審議に臨んだ自民党
今回は、審議の内容を報告する前に、自民党、特に与党側筆頭幹事の新藤義孝氏の許しがたい振る舞いを指摘しておきたいと思います。新藤氏は、この日の審査会について「6月15日、憲法審査会において、昨年の常会より一年半にわたり議論を積み重ねてまいりました“緊急事態条項”についての総括的論点整理を行いました。法制局論点整理資料と私の発言メモをご覧になってください」といけしゃあしゃあとツイートし、フェイスブックに関係資料を掲載していますが、実は氏は橘局長の説明のとき短時間でしたが1度退席し、戻ってきて自身の発言を終えると再び退席してそのまま欠席を続けたのです。
新藤氏が議場で審議に参加していたのは約90分のうち30分足らずだったと思います。上掲の『東京新聞』の記事で、三木圭恵氏(維新)の質問に上川陽子氏(自民)が回答しているのも、新藤氏が不在だったからです。
新藤氏が議場で審議に参加していたのは約90分のうち30分足らずだったと思います。上掲の『東京新聞』の記事で、三木圭恵氏(維新)の質問に上川陽子氏(自民)が回答しているのも、新藤氏が不在だったからです。
自民党の幹事では、他にも山下貴司氏が最初から最後まで姿を見せず、柴山昌彦氏と伊藤信太郎氏も一時退席していました。つまり、5人中ずっと席に着いていたのは上川陽子氏だけだったわけで、これが改憲を「党是」だとして、憲法審査会の開催を強行し続けている自民党の実態です。
岸田の「自民党総裁任期中の改憲」をめぐる耐えがたいやり取り
上記の三木圭恵氏と上川陽子氏の質疑ですが、もう少し細かく紹介すると以下のようなものでした。
三木氏:岸田総理は自身の総裁任期中に改憲を成し遂げると意欲を見せている。総裁の任期である来年9月までに改憲をしようとすれば、逆算すると(この後三木氏はかなり無理なスケジュールを述べていますが、省略します)今年秋の臨時国会でまずどの条項で改憲原案を作成するかを決めなければならない。このスケジュールに対する自民党の考えはいかがか。
上川氏:岸田総裁が任期中に発議したいと言っているのは(ここで、改憲ではなく発議にハードルを下げていることが注目されます)、改憲への強い思いを表明されたものだ。安倍、菅総裁も同趣旨の発言をしており、これは自民党の党是にのっとったものだ。しかし、任期というのは具体的に来年9月を想定したものではなく、今後の党運営の中で決まっていくものであり、具体的なスケジュールを念頭に置いて作業を行っている状況ではない。
三木氏:それでは、仮に岸田総裁が2期目の総裁選で選ばれなかった場合は、約束が果たせないことになる。民間の感覚では、目標を立て計画を立てスケジュールを示して達成に向かうことが当然だ。いまの与党に維新、国民、有志の会を合わせた議席数は3分の2以上になるので、今後総裁任期中にという約束をするなら、期間をきっちり示されることをお勧めする。いまのようなお答えでは改憲を待ち望む国民は期待を裏切られたと感じるのではないか。
今国会の憲法審においてもまれに見る実にくだらないやり取りでしたが、玉木雄一郎氏(国民)も「岸田総理自身も、その定義はいろいろあるのだろうが自らの任期中に改憲するという意欲を示されているのだから、遅くとも来年の通常国会で発議ができるスケジュールで作業を進めていただくよう、特に自民党はその作業をリードしていただきたいとお願いする」と述べていました。維新、国民が改憲に向けて自民党を強力に後押しする、あるいは積極的に牽引する文字どおりの改憲勢力であることがあらためて明確に示されたと思います。
自公は議論の積み重ねを強調
上掲の『東京新聞』の記事では、衆院憲法審で緊急事態条項をめぐる議論が積み重ねられてきたことを強調する北側一雄氏(公明)の発言が紹介されていますが、新藤義孝氏はさらに詳細に「衆院憲法審では、昨年の通常国会、臨時国会を経て今通常国会に至るまで、1年半にわたり緊急事態条項について討議を積み重ねてきた。昨年の常会では計10回、延べ98人、秋の臨時会では計4回、延べ34人、この常会では先週まで計14回、延べ109人が発言しており、合計で28回、延べ241人が発言している」と指摘し、「この膨大な議論を整理したものが先ほどの(衆院法制局長が説明した)論点整理資料であり、今後これを参考にさらに議論を深め、絞っていく必要があると考えている」と述べました。
実際には繰り返しが多く、「膨大な議論」が行われたとはとうてい言えませんが、政権与党である自公両党の改憲問題のキーパーソンがそろってこれまでの議論の積み重ねを評価する見解を打ち出したことは、大いに注目・警戒する必要があると思います。いまのところいつ、どの条項がターゲットとされるのかはわかりませんが、これだけ議論を重ねてきたのだから3分の2の多数決で改憲を発議しようという機運が高まる可能性は常にあるのだと考えて、改憲・戦争に断固反対する闘いとして改憲案の国会発議阻止!を広く訴えていかなければなりません。
今国会最後の衆院憲法審と同じ6月15日、自民党内で下記の動きがありました。以下、『産経ニュース』の記事を転載します。
自民安倍派「憲法9条2項削除目指すべき」提言決定
『産経ニュース』2023年6月15日
自民党安倍派(清和政策研究会、100人)は15日、昨年7月に死去した安倍晋三元首相が悲願とした憲法改正を巡り、自衛隊明記を実現した上で、次の段階として「戦力不保持」を定めた9条2項の削除を目指すべきだとする提言を決定した。
提言は、9条2項によって自衛隊が行使できる自衛権の範囲が制約されているため「急変する国際情勢の変化に対応していくことは、今後、困難となる場合も想定される」と指摘。「自衛隊を国内法上も国際法上も普通の『軍隊』として位置付けることが必要だ」として、9条2項削除を目指すべきだとした。
一方で、改憲には国民の幅広い信頼と賛同が不可欠だとして「国民の理解を得ている」とする自衛隊明記を先行させるよう訴えた。
派内で改憲について議論してきたプロジェクトチーム座長の稲田朋美元防衛相は、党本部で記者団に「安倍氏は9条の問題を改憲の中核だととらえていた」と述べ、提言をまとめた意義を説明した。
* 引用、ここまで。
私は、以前から憲法審査会の議論の中で自民党が、暴走と言っても過言ではない勢いで改憲を主張してきた日本維新の会、それに追随するようになった国民民主党などと少し距離を置いているように見えるのはどうしてなのだろうと考えてきましたが、その一つの要因は、党内で9条を変えるなら自衛隊、自衛権の明記だけでは不十分であり2項を削除すべきだ、そして緊急事態条項を創設するなら議員の任期延長にとどまらず緊急政令、緊急財政処分も位置づけるべきだという勢力が大きな影響力を持っていることかもしれません。つまり、自民党の党是である改憲は、選挙困難事態に備えて議員任期延長の規定を設けるなどという些末な事項ではなく、集団的自衛権、国家緊急権の行使を全面的に可能ならしめるという壮大な課題に対応するものでなければならないということです。
安倍派の提言は「自衛隊明記を実現した上で、次の段階として9条2項の削除を目指すべきだ」というやや微温的な内容のようですが、自民党右派の動向には常に注意を払っていかなければいけないと思います。
この日の傍聴者は最初40人くらいでしたが、開会後少し経つと年配者の集団が入ってきて70人ほどに膨れ上がりました。一時は立ち見の方も出ましたが、10時前には50人くらいで落ち着きました。記者は6、7人でした。
この日は最初に書いたように自民党の幹事の欠席が目立ちましたが、党全体では3~6人程度で推移し、いつもより少なめでした(ただし、共産党の赤嶺政賢氏の発言時には10人ほどに増えていました)。他の党派では立民、維新の委員も席を外している時間がありました。
(国会・衆議院側入口前)
(国会・衆議院側入口前)
今回で長かった通常国会の憲法審査会はようやく終了しました。衆院では第1回の3月2日以降すべての定例日に計15回、参院では前日の6月14日には開かれませんでしたが第1回の4月5日以降10回の定例日中計7回の開催となりました。いまは全22回の審査会の傍聴を完遂できたことにホッとしていますが、次の国会からの展開を考えると本当に恐ろしく感じます。あらためて気を引き締め直し、改憲・戦争阻止の闘いに取り組んでいきたいと思いますので、よろしくお願いします。(銀)