武蔵大学教授の永田浩三さんが、あいちトリエンナーレ2019での「表現の不自由展」中止について、facebookで「表現の不自由展実行委員会」としての声明を発表しておられます。
以下、ご紹介します。


表現の自由回復のために
表現の不自由展実行委員会が望むこと

すこし長いですが、どうぞお読みください。


 主に日本で起こった検閲や言論規制を受けた作品を集めた展示企画、あいちトリエンナーレ2019の「表現の不自由展・その後」は、大規模な言論テロによってわずか展示開始3日目にして終了に追い込まれました。
いま、「表現の不自由展・その後」の入り口は巨大な壁で塞がれています。しかし、会場内は封鎖される前のまま維持され、私たち実行委員会が交代で保全・見守りを続けています。


まず、私たち表現の不自由展実行委員会は、以下の点でこの「大規模な言論テロ」に対し憂慮すべきとともに社会的犯罪として抗議の声をあげます。

1)作家の作品を公開する権利を奪ってしまったこと
2)展示施設で働くスタッフの方々に対する「言葉の暴力」で心身両面での疲弊を強いたこと
3)美術展示施設の表現の自由を破壊したこと
4)痛ましい京都アニメーションの放火事件を連想させる犯罪教唆で社会的不安を引き起こしたこと

まず今回の件でなすべきは、展示終了までの経緯を詳細に至るまで明らかにし、いまや日本社会全体の問題となってしまったこの「表現の危機」の情報を広く分かち合い、議論を喚起することに思います。そして、私たち実行委員会は、展示再開というかたちでの「表現の自由」を回復することこそが、この「表現の危機」に立ちむかう最良の手段であると信じてやみません。
先日、あいちトリエンナーレ2019実行委員会にお渡しした「『表現の不自由展・その後』中止に対する公開質問状」は、再開のための衆議を分かち合うためのステップと位置づけています。

あいちトリエンナーレ2019実行委員会の「展示終了」という最終決定は、表現の不自由展実行委員会に正式な最終通告がなく、大村知事の記者会見をネット等の傍聴で知らされました。
この相互協議のない一方的な措置は、表現の不自由展実行委員会と出展作家の権利を損ねるものであり、批判の声明を出しました。
これは美術展示の意思決定は公正なものでありたいという思いから出したもので、美術界の改善と公共性の向上の願いが根底にあります。決して、あいちトリエンナーレ2019実行委員会との対立を企図してのことではありません。


この「表現の危機」において求められるのは、結束の力です。先ごろ72組の本展と「表現の不自由展・その後」の作家が合流し、「再開の呼び掛け」を訴えるアーティスト・ステートメントがなされました(8月15日現在83組)。私たち実行委員はこれに強く勇気づけられました。その生まれる過程では、私たちが出展作家の仲立ちをし、かれらが合流した経緯もあります。
また、本件で多くの市民の方、ジャーナリスト・有識者団体からも再開を求める支援の声をいただきました。私たちはその期待に応える責務を重く受け止めています。
今度は、私たち表現の不自由展実行委員会とほぼ途絶えがちとなってしまったあいちトリエンナーレ2019実行委員会との間で対話を回復させ、ともに手を携え、再開のための人事を尽くす番だと思います。


私たちが求めるのは、安全かつ安心なかたちでの再開です。私たちは企画準備初期(4月)から、保安上の問題に対しては、私たちの長年の経験をもとに、専門家の知見もいただき、おそらくは最高レベルの対処マニュアルと注意喚起をし続けてきました。抗議行動もある程度予測していました。
そうした事態になった場合、最も懸念されるのは、最前線に立たされる電話応対される職員の方、会場のボランティア監視員の方たちの心身の消耗です。ですから事前の研修の必要性と心身の消耗のケアの重要性も指摘もしてきました。そうした準備が十分になされていなかったことは本当に残念でなりません。
こちらに加え、今回の事態の詳細な情報開示を受け、より広い専門家の参集で事態の分析をともに行っていきたいと思います。
その過程を経て、ご来場いただく方々には安全かつ安心して作品の鑑賞ができる環境づくりを見出すことができると信じています。


ヴェネチア・ビエンナーレやドクメンタを筆頭とする、海外の国際美術展は、近年社会のタブーを直視する政治性の強い美術表現を集め、世に問題提起を投げかけています。日本の美術展示ではそれがかなり希薄であることがしばしば指摘されています。
あいちトリエンナーレ2019「表現の不自由展・その後」にも、そうした世界潮流に呼応する意味合いがあります。本展出品作のなかに含まれる、強制連行や日本軍「慰安婦」、天皇制、在日米軍基地、政治と社会の右傾化、福島の放射性物質汚染、といった主題はまさにこの「日本社会のタブー」そのものです。
そうした意味合いを持つ「表現の不自由展・その後」を、圧力に抗して再開させることは、日本の美術と社会の改善と発展に資するものがあるでしょう。
また「表現の不自由展・その後」の原型である、2015年のギャラリー古藤で始まった「表現の不自由展」は、いま日本社会に蔓延しつつある検閲と規制の問題を扱うことで、この社会に公正さと公共性を確保したいという問題意識から生まれました。今回の件で「言論表現の危機」が改めて明らかとなりました。この事態に対し、私たちは再開によって応えたいと思います。

あいちトリエンナーレ2019実行委員会・大村秀章会長、津田大介芸術監督には継続して対話を呼びかけていきます。一緒に力を合わせ、多くの市民やジャーナリスト、識者の方からの応援のもと、再開を実現したいと決意しています。


2019年8月15日

表現の不自由展実行委員会
アライ=ヒロユキ、岩崎貞明、岡本有佳、小倉利丸、永田浩三